たまたまマンガ喫茶で手に取ったのが運の尽き。萌えまくって読み切ってしまいました、その名も「あしたのじょー」!(検索対策でわざと間違えておきます。)
自分でもびっくり(笑) だって私、スポーツマンガって肌に合わないんですよ。打算的な人間なので(笑)。これはね〜、多分死ぬほど語り尽くされたマンガでしょうから、今更書くのも気が引けるのですが・・・・。ここから先は、力石の死因を知っているような人は読まないで下さいませ。丈×葉メインなので!! 往年のファンの方は特に!!ジョーをバカにするのか!とか言われるのが非常に怖い・・・。どうやら、学生運動とかの年代のバイブルだったらしいのです。若い(?)小娘の感想だと思って鼻で笑って頂いて結構です。
さて。ここからは完全ネタバレ。嫌な方は読まないように!!
そもそも私は、あしたのジョーに女性キャラがいたこと自体、知らなかったですからね〜。丈と葉子が出会ったのは、家庭裁判所! なんて素敵なんだ(笑) 連載開始当時、丈は15才くらい。ケンカが強い不良・・・というかチンピラ? 天涯孤独で自由を求めて施設も脱走、不良マンガのような男気もこの頃はなく描かれています。弱い犬ほどよく吠えるという感じで、周りに対して尖ってばかり。私はファイトマネーを孤児院に寄付していると思っていたので(どうやらタイガーマスクと混同していたらしい)、結構びっくりしました。腕を見込んだ丹下にボクシングを誘われても、けんもほろろ。貧しい町に流れ着いて、近所の子供を孤児に仕立て上げ、孤児院をつくるというデマの記事で寄付を騙し取った罪で捕まるのです。セコイ・・・・・。
その裁判中、傍聴席に入ってきた長い髪の美人。年は丈より2,3才は上っぽい。それが丈の記事に寄付して被害にあった白木財閥の孫娘、白木葉子。 それまで怒鳴り散らしていた丈が、2コマも呆然と葉子に釘付けです。はっはっはっ、一目惚れ?! いきなり下克上愛の香りが漂ってきました!!! これはかなり手の届かない物件です! この時丈は、葉子の上から蔑む視線が、なまじ美人なだけに突き刺さったそうです。これ以上ない最悪の初対面です。
この罪で丈は少年院に送られます。自分の心以外に従えない一匹狼、いわば読者の男のロマンを一身に背負った丈は、案の定周りと衝突していじめられるのですが・・・・、雑巾を口に入れられたり、殴られたり、豚の糞を素手で集めさせられたり・・・・意外に普通?(笑) 麻宮サキの所(私の中のワースト1)は越えなかったですね〜。
このままでは丈は性根まで腐って終わりだと恐れた丹下は、葉書を送ります。その内容は、「あしたのために、その1 右フックは云々というような、ボクシングのお手製通信教育!!! 挨拶文くらい書けよ!(笑) いや、これには度肝抜かれました・・・。でも、「あしたのために」という希望は素敵だなと思います。丈にはまだ通じませんが・・・。
そして丈が脱走を企て、それを阻止したのが、あの私でも知っていた有名な力石です。初めて他人に完全に負けて、復讐に燃える丈。この二人、最初はこんなにスポーツマンシップゼロだったんですね・・・・。ようやく丈が丹下の葉書に従いだします。まだ私怨だけどね(^-^;;。
そこへ・・・葉子が再登場! なんと彼女、寄付だけではなく、劇団を率いて慰問して回ったりもしていたのです。でもそれだけならともかく、自分で主役の慈悲深い聖女を演じるってのはどーでしょう・・・(汗)。丈に偽善者と言われても仕方ないかも。「あんたは自分のためにやっているんだ」これは丈の台詞ですが・・・私が想像するに、あの時代の財閥令嬢なんてお飾りとして扱われてるに違いありません。そんな中、一度何かで感謝されて、それに充足をおぼえて、エスカレートしていったのではないかな。だって、葉子は優位に立っているのに、全然幸せそうじゃないもの。丈は根が真面目で、自分が100%の気持ちで生きているだけに、相手もそうでないと受け入れられないのでしょう。この潔癖さ、私も十代の頃なら共感したかもしれません。今読むと、いいじゃん、いつか本物になればさ〜って感じです(笑) ・・・・この辺りの、自分から譲って他人と折り合うことを知らない性格は、最後まで災いします。
さて、葉子お嬢様を侮辱されて黙っていられないのが力石です。この男は、出所したら白木財閥会長が彼のためにジムを作って、プロボクサーに戻ることになっていたのですから! ちょっと無理矢理な設定じゃないか?!(笑) なぜ、白木家はそこまで力石に肩入れするのか説明がない・・・。ま、いいか少年マンガだから。
二人にケンカさせる訳にはいかないので、所内でボクシング大会が開かれます。リングを用意する葉子に、これまた男の勝負に出しゃばるな!とイラつく丈。「どうしていつもイライラしているの?」「なめられないように、プライドを守るために必死なんだ!」「ちっぽけな人ね」・・・・葉子・・・しっかりと侮辱には侮辱でお返し。やはりお嬢様は気が強くなくてはいけませんが、葉子の気丈さはまた格別です。野獣だの死神だのと呼ばれるようになる丈に、怒鳴られようと負けません! 勿論、圧倒的優位な立場にあるからですが。気にくわない奴は拳で黙らせてきた丈が、流石に暴力は振るえないし、口では負けるし、葉子を黙らせることが出来なくてイライラしっぱなし。以来、この二人が顔を合わせると毎回ケンカ(萌) そのくせ、葉子が酔っぱらいにからまれると、「やめろ!」と怒鳴るしね〜どっちなのよ丈(笑)
丈は全編に渡って「女のくせに」とか「男の世界に口出しするな」とか葉子に怒鳴り続け、突き飛ばし、挙げ句に水をかけたことまであって、普通なら同じ女としてムカつくのですが、・・・・・あまりに丈が葉子の顔を見ただけでテンションMAXになるので・・・あんた・・・それほどまでに葉子のこと、女として意識してしまってどうしようもないのねって感じ・・・(萌)
結局二人の勝負は引き分けでシャバに持ち越し。しかし、ボロボロになりながらも何度でも立ち上がる丈の姿は、元ボクサーの力石には悔しさを残し、葉子には強烈な印象を残したのです。
そして色々とあって、プロボクサーになれた丈。丹下さん、橋の下の自分のバラック小屋を、ジムに建て替えたのには驚いたよ・・・・。 だって、寝泊まりする屋根裏まであるんですよ! 橋の下に2階建てを建築! ありえねぇ!(笑) でもその気持ちは丈にやっと届いたのでした。ボクシングによって初めて人に認められ、社会に居場所が出来、愛された喜びを知る丈。生きること=ボクシングになっていきます。この辺りから、私も丈を好きになってきます。
一方力石は白木ジムで練習をし、・・・なんで白木家に住んでるんだっ?! 同じ年頃の男女が・・・いくら大豪邸だからって・・・鷹揚すぎるぜ、白木家。力石ときたら、顔に似合わず「さあ行きましょうお嬢さん」と葉子の肩を抱いたり、葉子が食卓に着く時、椅子をひいてエスコートしたり、紳士ぶりを発揮。葉子は「力石くん」と君付けで呼んでいる・・・。婿か、君は・・・。
プロのリングで決着をつけるため、矢吹に合わせて2階級減量する力石。何キロなのかは知りませんが、自殺行為らしいです。葉子は始めは必死で止めますが、やがて根負けして協力することに。こういう時、私は2階級違うなら、力石が一つ落として、丈が一つ上がればいいじゃないかと思うのですが、力石は、太った矢吹なんて相手として嫌なんですって。丈は、この試合に勝って、次は自分が2階級上がって再戦とか考えているし。ま、それが男の世界というなら、いいけども・・・・・。
「あしたのジョー論」吉田和明・著に書いてありましたが、この時、丈は単に自分より強い相手がいるのが我慢ならなくて、力石との男の勝負としか思っていないが、力石は、それに加え葉子によりふさわしい男になりたかったと書いてあります。その意見、私ものった! 確かに、力石しか見ていない丈に対し、力石は、これから自分がチャンピオンになり、富と栄光を手に入れる夢を葉子に語っています。そして、その暁には財閥令嬢である葉子に手が届く・・・・と考えていたのかもしれません。葉子が丈を意識する度に、力石は敏感に感じ取っていますし。だから、自分が減量してでも、葉子の前で万全の状態の丈に勝つ必要があったのでしょう。
さて、結果は皆様ご存知の通りです。有名なシーンですが色々と知らなかった意味がありました。あの鼻っ柱だけは強い丈が、自分が負けた相手を認め、自分から握手を求めるというのは、かなりすごいことだったのですね〜。そして、控え室に戻り、最高のライバルを得た喜びをかみしめる丈に、訃報が知らされます。その時の絶叫は、まるで資料室でのヒカルのよう。孤児として人々に遠巻きに接してこられた丈にとって、初めて魂ごとぶつかり合い、認め合った相手を、自分の手で殺してしまったショックは激しいものでした。
力石の控え室に行く丈。減量に協力した自分を泣いて責める葉子に、会長が「自分を責めるな。おまえが密かに絶食して力石くんと苦しみを共有していたのを私は知っている」と慰めると、驚いた顔で葉子を見つめる丈。このコマは、何気ないコマですが、ポイントです! 初めて、丈が葉子を少しは認めた瞬間なんじゃないでしょうか。それというのも、その後、力石の葬儀から帰ってきた丹下に、丈は「葉子泣いてたんじゃないか」と心配しています。こんな優しい台詞、初めてじゃないですか?! 以前のように、偽善者とは思っていない証拠だと思うのです。普段怒鳴り散らしてる割に、女の涙には弱いみたいです(笑)。ただ、ここで認めたのは葉子の力石に対する悲しみであって・・・・完全に勘違いしたんじゃないかと・・・・・。いや、葉子も力石を好きだった可能性もありますが、・・・どうかなぁ。減量に耐えた姿を尊敬はしていたと思いますが。力石といる時、葉子は自分のペースを保っていたので、私にはあまり恋という感じがしないんですよね・・・。もっと長く一緒にいれば、尊敬から愛に変わったかもしれませんが・・・・。
その後、力石を殺したショックでボクシングを捨て、酒に溺れようとする丈を見て、葉子は激怒。そして、ここはかなりの重要なセリフでしょう。要約すると「待ちなさい矢吹君、あなたは力石君を死に追いやっておいてそんなことしていい身分ではないでしょう。神聖な負債があるはず。自覚しなさい、あなたはリングの上で死ぬべき人間なのだと! 逃げるなんて許しません!」という感じ。命令口調が葉子らしいね・・・・。力石を愛していた(と丈は思っている)葉子にこれを言われては、かなり胸にこたえたようで、リングに戻る気になります。前出の本では、「葉子にふさわしい男になりたい」という気持ちもあっただろうと書かれています。・・・・その意見のった!!(笑) でも、このセリフ。葉子は後で死ぬほど後悔するのでは・・・・・(T・T)
しかし、気持ちは立ち直っても、トラウマで人の顔を殴れなくなってしまった丈は、当然勝てず、どんどん無様に落ちていき、もう誰も丈と試合をしようとはしません。そうなると葉子は自ら白木ジムの会長兼プロモーターとして試合を開催し、丈の闘争心が奮い立つような強い相手を呼んできて、尚かつ、周囲に不自然だと思われないような丈がリングに戻る筋書きを企むのでした。あちこちのボクサーやジムを計画通りに操る、冷たい美貌にうっとり。
もう、丈はいつだって葉子の顔を見るだけで、今度は何を企んでいる!と、ピリピリして大変(笑) リングの上からも、葉子チェックを怠りません。葉子が見知らぬ外人男を連れていると「誰だあいつは!」と、試合の最中だってのに、気にしまくり。 結局は葉子は賭けに勝ち、丈はまんまと昔の闘争心を取り戻し、トラウマから脱します。なのに丈は、「いとしい力石を死に追いやった俺がのうのうと生きているのが我慢ならないのかい」なんて思ってるし。そのくせ、自分が熱望する試合が葉子のプロモートで実現するとなると、「あんたはヒョイと現れては、運命の曲がり角で待ち伏せて俺を引きずり込む、まるで悪魔のような女だ。時々女神にも見えるのがやっかいだ」なんて言うし。(本が手元にないので確かめられないのが辛い・・) いいよな・・・悪魔のような女・・・言われてみたいものです・・・(無理) つまり、このマンガの話の展開は、葉子によって動かされていると言えます。
この辺りになると、丈も20才位になって男らしくなってくるので、見た目にも萌えられるようになります。あの絵柄に見慣れてくるとも言いますが(笑)。
その死闘を繰り広げた後で、具合の悪い丹下の代わりに、珍しく丈がファイトマネーを受け取りに行くシーンがあります。折角丈が普通に受け取りに行ったのに、激闘の余韻でぼんやりした状態の丈を見て葉子がせめてもの気持ち・・・とファイトマネーを多めに書いたからさあ大変。「どうしてあんたと俺はまともに会って話すことができないんだ! そっとしておいてほしいものを、いじくりまわすからだ! 施しのつもりか! 俺はあの試合で再起不能になってもいい位満足しているんだ!」という感じ。・・・・自覚があるんだ、ケンカしてばっかりって・・・そして、普通に話せればいいのにと思ってたのね(萌) 別れた後で後悔していたのね!(萌)
この時は葉子が悪いですよ、まあ、プロモーターとしてお金で気持ちを伝えようとするのはある意味当たり前かもしれませんが・・・・・、ここはひとつ、「矢吹くん、この間の試合素晴らしかったわ」と一言いえば、丈はきっと、「あんたがそんなこと言うなんて気味が悪いな」とか「別に、あんたには関係ない、俺は男の勝負をしただけだ」とか「ふん、そんなに儲かったのかい」とか照れ隠しに怒鳴って、密かにスキップで帰ったと思うのに・・・。
さて、話は丈が出所した頃に戻りますが、もう一人、女性の登場人物が現れます。バイト先の乾物屋のセーラー服姿が可愛い女の子、紀子です。葉子が沙織お嬢様だとすると、紀子は美穂ちゃんみたいな感じですね。既に丈×葉子推進委員会会長に立候補する気分だった私は、紀子の出現にやばいっと思ったのですが・・・初対面時の丈の言葉は「葉子?!」でした。葉子に顔が似ているという設定だったのです。(絵柄ではそうは見えませんけれど(爆) 他の誰かに似ていると言われた時点で、紀子には悪いけど、紀子の線はないな〜と思いました。それにしても、嫌々バイトに来たくせに、紀子を見た途端に、なによ、あの丈のご機嫌ぶりは・・・。珍しく浮かれちゃって・・・。葉子と同じ顔に優しくされて、そんなに嬉しいか・・・(笑)
殺伐としたジムに、差し入れを持ってきたり、掃除をしたりする紀子は、いわば穏やかな愛情に満ちた普通の幸せの象徴。そんなもの一つも持って生まれなかった丈は、きっとものすごく家庭の愛に飢えすぎていて、欲しがることも上手に受け止めることもできなかったのでしょう。掃除してもらっても、紀子の愛情を感じても、「ありがとう」の一言も言えないんですから恥ずかしがりにも程があるってもんです。嬉しかったとは思いますよ、丈、紀子には優しかったし。紀子の愛情表現には、わざと遠ざけるような言動をとっていましたが。(乱暴な口をきかないというだけで、優しいと思うのも変ですけど、何しろ基準(葉子)が低すぎるから・・・(笑) 丈は根は優しいんですよ。近所の子供も可愛がるし。葉子もボクシングにからんでさえ、いなければね・・・(そしたら関係が無くなってしまうけれど・・・(苦笑)。
「野性」「ケンカ屋」「死神」だのと言われ、破竹の勢いの強さの丈ですが、異変が起きます。身長が伸びちゃったんですね(笑) どうりでようやく格好良く見えてきたのに。それなら階級が上がるのが普通なのに、「バンタムは俺と力石の古戦場だから」などと、読者が酔いしれる理由で拒否します。丹下が必死で止めても、もはや理屈では敵いません。それに・・・後から思えば、この頃からパンチドランカー症状が出てきてたのではないでしょうか。丈が一人、思い詰めた表情をするシーンが増えてきます。
前述の本では、こう分析されています。ラスト、丈は燃え尽きて(おそらく)死んだ。それは症状のせいではなく、「丈は燃え尽きるべきだ」という読者の願望が、症状を生み、悪い意味で大人になって社会に妥協して生きる道を許さなかったという、この分析は、正しいというか、当たり前というか・・・・、丈だけでなく、悲劇的なラストシーンを持つ他の作品にも当てはまることだと思います。
ここで私は、この丈の運命が決定づけられた瞬間は、パンチドランカーになった瞬間ではなく、紀ちゃんが去っていった瞬間だと思うのです。
このマンガの中で、丈が穏やかにちゃんと自分の気持ちを語ったのは、この回だけじゃないかという、紀ちゃんとのデート(?)、偶然公園行ってお茶して二人で歩いたシーンがあります。「最近の矢吹君を見ていると辛い。ボクシングをやめない?」という紀ちゃんの言葉に、「力石たちの事を思うと、辛いからといって止めるわけにはいかない。俺には負債がある。それに、試合で真っ白になる程、完全燃焼する瞬間が好きなんだ」と、かなり端折ると、こんな感じで語ります。紀ちゃんは、「気持ち、分かるような気がするけど、ついていけそうにない・・・」と走り去ってしまいます。
あ゛ーっっっっ、あほかーっ、紀子ーっっっ。紀子としては、「紀ちゃんの与えてくれる幸せなんか必要ない」と言われたように感じたのでしょうが、・・・・紀子のばかっ。あの口べたな丈がここまで一生懸命真面目に自分のボクシング(人生)について語ってくれたという、その価値に気づこうよ〜〜。丈は紀ちゃんが好きだから、100%でぶつかったのに・・・。
結局、紀子は後に、丈の友達と結婚します。暖かく(始め丈のことを好きだったことも知っている上で)紀子を愛してくれていて、家業も継いでくれる人と・・・。その選択は、女としてかなり共感できてしまうから、責めはしないけれど・・・・・。丈の結婚式での祝辞の時、いつも向日葵のようだった紀ちゃんが初めて見せた冷たい瞳について、前述の本がまたこれ、完璧に解説しているのですが、「つつましい幸せ」を蹴った丈に対する蔑み、葉子のようには丈の世界についていけない自分への蔑みだと。あなたは一人で不幸になればいいという想いは、裏に愛情が残っているからこその想いでしょう。紀子が、あの時、丈についていけないとしても、丈が紀子に分かって欲しくて一生懸命説明したのだと気が付いていれば、結婚式で、そんな冷たい目をしなくてすんだのに。「ごめんね、矢吹くん」という悲しい目をすることができたでしょうに。
もし、あの時、紀子がその暖かい愛で丈のボクシングを理解し、「わかった。疲れた時は、私のことを思い出して。いつでも矢吹くんのこと想って待っているから」と言っていたら、紀子は丈の世界の人間として丈の心の奥深いところに、葉子と同じ高さで対極の位置に並び立ったかもしれません。そして、ボクサーとして再起不能になった丈にとって(そして読者にとって)、最後に帰るところ、未来の幸せの象徴になったもしれません。
まあでも仕方ないかな。以前丈が葉子に対して「悪魔のような女だ(以下略)」と言った時、紀子はその場にいました。ただでさえ丈は、ボクシングというどんな美女も敵わないものに魅入られているというのに、そのボクシングを手に握って丈にちらつかせる、本物の美女がいたのではね・・・。
丈はどちらが好きだったのか? その問いに私なら両方・・・いやむしろ紀子か?と答えます。家庭的で可愛くて、いつも側にいる紀子のことは普通に意識してたんじゃないかな。丈には野性的な猛々しい部分と、意外に優しい部分とありますが、紀子には優しい部分でつまり理性的に接していたことが多いですね。葉子は・・・財閥令嬢&プロモーター社長と一匹狼ボクサーという社会的な差に加え、年上だし、葉子が何を考えているのか丈は理解できないし、話し合うこともできない、遠い心の距離。そのくせ突然現れては丈の運命をひっくり返していく、丈の存在の根底に関わる手に負えない女。自分が死に追いやった男の恋人だった女。それはもう、恋なんて甘いものではなくて、葉子の取り澄ました美貌を見ると崩してやりたくなる、そんな激しい本能的なものを希望。
そして結局、紀子は去り、丈には最早ボクシングで燃え尽きる以外の道はなくなった、そういうことだと思います。流石に丈もこの後はちょっと荒れてましたね、妙に試合をやりたがったりして(笑)
ボクシングにのめり込んでいく丈を見て、今度は葉子が、不安に思い始めます。「もう引退したら」と言うと、丈は「紀ちゃんと同じ事言うんだな。なんだかんだ言っても、女はいっしょなんだな」「紀ちゃんって?」「近くの乾物屋の娘だよ」「ああ・・・」 な、なんか・・・・ドキドキする会話です・・・。「怖いのよ、まるで矢吹くんが死に場所を探しているみたいで」「あんたが言ったんだぜ、リングの上で死ねと」「やめてよ、もうその話は」 アダルトな雰囲気です・・・。・・・車で送るという葉子の誘いを断り、歩いて去っていく丈。こんな貧富の差にも萌えたりして、緊迫したいいシーンなのに・・・・なのに何故・・・このシーンの間中、丈は草をくわえているんだーっっっっ(T・T)(笑) シリアスになりきれない・・・。20年前の・・・表現方法が憎い・・・。
さて、そんなこんなで東洋チャンピオン戦。これはかなり丈×葉な展開の萌え試合。減量に苦しみ抜いた丈の控え室に、葉子が訪ねてきます。案の定、「ちゃらちゃらおしゃべりする気分じゃねぇ!」とか「女のくせに控え室なんか来るな!」とか、「家でぬいぐるみでも抱いてた方がお似合いだ」には笑いましたけど・・・・あんたどういう女性観してるの・・・・(笑)。まあ、葉子が美人だってことは、認めているのね。そのくせ、葉子が「今日の試合は見る気がしないの・・・。大切な試合なのにごめんなさい。頑張ってね」と葉子が去ると、びっくり呆然。置いて行かれた子供状態。葉子は試合を見るもんだとばかり、思っていたのね・・・・。そんなに見られていると違うのかい・・(萌) 確かに始めの頃から、すました顔の葉子に目にもの見せてやるってノリでリングに上がって、段々試合の壮絶さに葉子が震えると満足気な所はありましたね(笑)
さすが相手は東洋チャンピオン、丈がダウン寸前という時に、葉子がリングサイドにやってきます。「棄権させて! 力石君がなぜ死んだのか忘れたの?!」と丹下に言う葉子。葉子が試合を見たくなかった理由は、減量苦の後の打撃戦という、力石が死んだ試合と同じだったからなのでした。「男が男なりに何かをしようって時に、しゃしゃり出て来るな!」と、水をかける丈。分かるよ、(ほんの何%かでも←控えめ(笑))葉子に見せてやると思って勝とうとしているのに、その当の葉子に棄権しろなんて言われたら、イラつく気持ちは。でもあんた・・・女の顔に水をかけるなんて・・・・紀子なら「ひどいっっ」とか行って、泣いて逃げるよ・・・・(怒) まあ、水もしたたる葉子が色っぽかったので、許してやるけどさ・・・。葉子の、白い浴衣が似合いそうな、ちょっとした大人の色気(上流階級風味)が、荒削りな丈とアンバランスでいい感じなんですよね〜。女王様と雇われ平民傭兵って感じで。(うっとり)
そして少年マンガの王道展開、葉子の存在によってライバル力石の事を思い出した丈は、妙な精神論で逆転勝ち。フラフラで「葉子はどこだっ・・」とつぶやいたりして、周りにはバレてると思うよ、君の気持ち・・・・。チャンピオンベルトを心の中で力石に見せる丈。葉子にも見せたかったのかもね。
試合の後、台詞でしか語られませんが、丈は葉子のところに会いに行って(!)、力石の墓参りに付き合ったらしい。何で、そんなおいしいシーンを絵で描かないのよ!!! 丈は衆目の前で水をかけてしまったのも気にしていたようです。しかし、この二人、まともに墓参りに行ってこれたのか?(笑) ・・・・力石のお墓にまめに通っている葉子を見て、丈は何を思ったのでしょうか。
次は世界チャンピオンだと、いきり立つ丈。多分、なんとなく、自分の身体がもうそんなに多くの試合に耐えられないと気づき始めているのでしょう。疑い始めた丹下の目を、誤魔化し続けています。防衛第一戦でハワイに行きますが、葉子が今度はチャンピオンの試合興行権を買ってしまいます。つまり、葉子の許可無しでチャンピオンと試合できないということです。「何のつもりだ!」と怒ってますね〜。「これはビジネスです」とクールに笑う葉子が素敵〜。会話はこんなにムードがなくても、二人で夜の砂浜を歩くシーンはロマンチック。そして・・・・夜の海で葉子が丈のパンチドランカー症状に気づき始めます・・・。
この頃の丈には、元の野性味や荒々しさが薄れてきていて、これではチャンピオンに勝てないと思った葉子は、興行権と引き替えに、荒々しい野性溢れる挑戦者との試合を丈に強要します。丈は回り道をさせられて怒るし、他のボクシング関係者には素人お嬢様の気まぐれとバカにされながら、たった一人密かに尽力する葉子。何の見返りがある訳でもないのに・・・(T・T) いや、自分でも気づいているのかいないのか・・・。
その試合も終わり、いよいよ次はチャンピオン戦。しかし、もうこれ以上試合をすると廃人になってしまう、丈の症状はそこまで進んでいたのです。興行権を約束通り手渡した葉子には、もう止めようがありません。丈を説得しようと何度会おうとしても、避けられてしまう。避けるのは・・・丈は葉子の用事を分かっているからでしょうが、別にそんなの、葉子に何を言われてもいつものように、拒否すれば済む筈。それをあそこまで徹底して顔も合わせないのは、葉子の顔を見たくなかったからじゃないでしょうか! この少し前に、紀子の結婚式があって、もう、未練があるとしたら後は葉子だけ。心乱されるのが嫌だったとか。丈の後輩が、「あんな美人が会いに来たら、俺だったら抱きしめてキスするのに〜」と不思議がっていますが、案外、丈もそんな気持ちだったから、逆に避けていたんだったりして(願望)
以前、パンチドランカーによって廃人になった男と会った時、丈は「見るな!」と葉子が部屋に入ってくるのを周りが不思議に思うくらい異常に乱暴に阻止しようとしました。葉子が、パンチドランカー専門のいい医者がいるから、ひきとると言うと、凄い顔をして、湯飲みを叩き割ったり。自分も高い確率でそうなるかもしれないと想像することは・・・・そりゃ恐ろしく耐えられないことだっでしょう。廃人になる上に、葉子に世話になるなんて・・・。
結局、葉子が丈に会えたのは、試合前の控え室・・・。飯何杯でもいける名シーンだっていうのに、こう言う時に限って葉子の洋服が変(笑) このマンガ、これまでは結構女性のファッションは、いまでもレトロファッションとしてOKなくらい良かったのに、なんでここにきて、妙な柄の服を着せるかなぁ・・・。
病状を告げ、試合を中止してという葉子に、丈は、「勝ちめがなくっても、もうそういうことじゃないのさ」と言います。もう、この時、丈の目は穏やかで、遠いところを見ています。もうこの世にお別れを告げたかのように。「待って」と思わず涙をこぼす葉子。少し驚いた丈だが、「心配してくれてるらしい・・・まあありがとよ」と憎まれ口で去ろうとする。
ドアを背に塞いで行かせまいとする葉子。「好きなのよ矢吹くん、あなたが!」 おおお!言った!! ここまではいい、ここまでは・・・。次に「お願い、わたしのために行かないで」 これは・・・私のためにって・・・そんなこと言えるのは余程愛されてる妻とかじゃないのか・・・。流石葉子・・・普通の女は言えない・・・(汗)。「衝撃の告白だな・・・」呆然と、椅子に座り込む丈。コマ使いもたっぷり。薄暗かった控え室に、天から光りが降りてきたような絵の表現が逆に悲しいです。ここで、「嘘だろ」とか、否定する言葉が出なかったことをチェックしたい! 葉子の愛を信じたのね?! 受け止めてるよあの丈が!!! 「女がそんなこと、軽々しく口にするもんじゃない」「軽々しかろうが構わない。愛する人を廃人にすることはできない」 葉子・・・格好いいっっっ。丈、たっぷり2コマも「・・・・・」と考え込みます。何を考えているんだ〜〜っっっ。今までの葉子と自分を思い出しているのでしょうか? それとも葉子に何と言葉をかけたらいいのか、迷っているのでしょうか。ていうか、あんた、紀子にはあれだけベラベラ喋ったくせに、今こそ何か喋れよっっっ。
丹下が時間だと呼びに来て、葉子の背中のドアを叩きます。丈はゆっくりと立ち上がり、「リングでチャンピオンが待っている。行かなくっちゃ・・」なんて恐ろしく優しい顔と口調で言って、葉子の肩に両手を置いて・・・・・たーっっぷり、2コマも見つめ合い・・・・「ありがとう」と、そっと葉子を横(蝶番側)にどかせます。あ゛ーっっっっっ、なんでそこで、キスするとか、抱きしめるとかしないのっ。そりゃ、丈はこの後一人勝手に燃え尽きて満足でしょうけど、私の噴火寸前の不完全燃焼はどうしてくれんのよーっっっっ。
分かってるわよ・・・。あの丈が葉子に「ありがとう」と言っただけでも、もうそりゃ、凄いことだし、萌えまくりなんですけどね・・・。でも・・・でも・・・。もう、どうして、どうでもいいエロマンガは巷に溢れているっていうのに、もう見たくて見たくてたまらないカップルに限って、手も握らないのよ・・・・(号泣) これだから男のロマンなんて嫌いよ〜〜。丈のカッコつけ野郎っ。22才の腐るほど体力のある男子がそんな、すましたこと考えてなんかないってこと、分かってるんだからなっっっ。ばかっ。
「どうした、誰かいるのか?」と部屋に入ろうとする丹下を押しとどめ、「いや・・・」とそのままリングへ去っていく丈。葉子をそっと一人にしてあげる、優しい心があるのになぁ・・・なんでこうなるんだろう・・・。崩れ落ちる葉子。美人さんです・・・・。
試合は壮絶を極め、途中で葉子は見ていられなくなって会場を飛び出します。運転手付きの車を待たせているあたり、さすが財閥令嬢。試合の中継ラジオをつけてと言ったり、消してと言ったり、苦しい心が伝わってきます。元々格闘技好きでもなんでもない葉子は、今までに三回、試合の壮絶さに逃げ出したことがありますが、そのどれも、「あんたが主謀者だろ。最後まで見ろ」という丈の言葉を思い出し、リングサイドに戻ってきました。葉子は、ボクシングをする丈の元に、戻り続けたのです。
リングサイドに戻り、丈に「頑張るのよ、あと少しじゃないの。悔いのないように力いっぱい打つのよ。」と励ます葉子。気丈な姿はせつないですが、最後まで命令形な辺り、葉子らしくて好き・・・・・。でもまあ、丈の心に届いたと思いますねぇ・・・。紀子には正直な気持ちを伝えて振られましたが、葉子は振ったのに戻ってきて理解してくれたのですから。二人が一つになったっていうか・・・。まさに丈の腕と葉子のビジネス力(笑)(と丹下の三人)で辿り着いたチャンピオン戦!!
丈はかつて力石を始めとして、試合前までは反目し合っていた相手と、力の限りぶつかり合った結果、その中で奇妙な友情を感じ、それは万の言葉に勝る親友だと言っていました。これは、案外、葉子にも当てはまるのかもしれませんね。丈が孤児で不良として遠巻きに接っされたのと同様、令嬢として誰もが遠慮がちで。リングの外で二人の心は激しくぶつかり合ってきましたから。葉子が丈を上から見て「くん」付けで呼ぶのも好きなんですが、丈が「葉子」と呼び捨てにするのも萌えます〜。丈だけですもんね。他の人は皆「葉子おじょうさん」か「会長」ですから。
そして結果は判定にもつれ込みます。でも、もう丈は、燃え尽きた充実感で、勝敗はどうでもいいかのよう・・・・。丹下を呼んでわざわざグローブを外してもらい、葉子の名を呼び(多分、視力も残ってないかも)、グローブを渡します。「あんたに、もらってほしいんだ・・・・」 これはっ、これは丈の最大級の気持ちの表現でしょう!!! そして、同時にさよならの意味を込めて・・・。丈と葉子の、長い長いリングの外での戦い、その終わりを告げる丈の全てを捧げるプレゼント・・・(号泣) 「やる」じゃなくて「もらって欲しい」ですよ、あーもう、ダメっっっ、やだこんなのーっっっっ。
判定が戻ってきた時、丈は満足げに微笑んだままうつむいて、もう二度と顔を上げることはありませんでした。
この私の萌え狂った心をどうしてくれる(怒) 控え室からそのままリングで終わられては、全く空白時間がなくて、妄想を潜り込ませる余地もありゃしない!。せめてギリギリ30分でもあればなぁ・・・・あ、ボクシングの試合前はダメか・・・(笑)。ダメだ・・・原作の時間軸内では、どうにもならない・・・。まあ、丈の生死ははっきり告げられていないんだし、適当に助かったってことにして、一人で脳内で楽しめばいいのですが・・・・。どうも、この二人はやりにくいです・・・・。
丈が奇跡的に回復したとしても、あの後、どうにも生きていきようがない。一匹狼の丈が、ジムに属してトレーナーというのもねぇ・・・。後10年後くらいならいいかもしれないけれど。それに、葉子とラブラブな毎日、というのも考えにくい。日常の家庭の匂いがしないことに関しては、葉子も丈といい勝負ですからね。それに・・・・。ギラギラしていない丈を、葉子は愛するのかどうかという、疑問が・・・・(苦笑) 葉子はあの、丈の持つ嵐に魅了されたのだと思うのです。
そういう訳で散々考えて(ヒマだな、私も・・・・)、ま、これならと折り合いがついたのが、丈、遠洋漁業に従事する。これでどうだ!! 一本釣りなんか似合うんじゃない? 猟師になってクマと闘ってもいいけど、それだと葉子に会いたい時に会えちゃうからね〜。一年くらい会えない方がいいんじゃないですか。そして、どこか南の島で、バリバリの女社長は彼の帰国に合わせてバカンスを過ごすの。わずかな期間の、非日常的な逢瀬。燃えあがって燃え尽きる。その繰り返し。これなら、あの二人でも続きそう。
それかまあ・・・百歩譲って、丈、丹下ジムで子どもボクシング教室を開く、でしょうか。子どもの面倒見は良かったから。そして、時折訪ねてくる、さりげなく高級な服を着た全く場にそぐわない美女・・・・(萌)
それにしたって・・・・、あの丈と葉子がどうしたらラブラブになるのか、かなりの難問です。丈がストイックすぎて、私では歯が立ちません。妙に奥手というか、紳士というか、鈍感というか、「嫁入り前の娘が・・・」とか言うタイプですよ、奴は。かといって、こんなことまで葉子の企みにはまって・・・という展開は、男として嫌だろう・・・。ねぇ、丈。始め私は、あれだけグレていた君のことだから、連載開始時に既に女遊びくらいしてただろうと思っていたんですが、ちゃんと読み返すとアナタ、ハワイに着いてレイかけられてウェルカムキスされた時、「やわらかいものくっつけるな!」って逃げるという驚愕の反応してますしね・・。アナタまさか・・・(笑) うわ〜も〜、ハードルが高くて、妄想しにくいな〜。
はー。長かった。読んだ方いらしたら、ご苦労様でした。あーあ、ネットに丈×葉がもう少しくらいあったらなぁ・・・。こんな悩むことないのにな〜。とにかく、二人のツーショットならもう、何でもいい気分よ・・・。でも、こんな昔のマンガに出てくるヒロインは、飛馬姉みたいな、良妻賢母タイプばかりだと思っていたので、びっくりしました。意外な所で意外な収穫。主謀者ってところがいいですよね〜。リングの横で見守るだけの女だったら、萌えませんでしたよ。